退職日が月末か月中かで、社会保険料の負担は大きく変わります。
とくに「月末退職は損なのか」「月末1日前だとどうなるのか」と迷う人は少なくありません。
本記事では、退職日と社会保険料の関係について詳しく解説します。
退職日ごとの社会保険料の違いや注意点、よくある質問も紹介。
退職のタイミングで悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
退職日が月末だと、社会保険料で損をする?
退職日が月末だからといって、社会保険料の面で必ず損になるとは限りません。
社会保険は「退職日の属する月」に保険料が発生する仕組みがあり、月末退職と月中退職で負担が変わる場合があります。
ただ、その差は一時的な手取り額に表れるだけで、長期的に見ると有利・不利とは言い切れません。
それは、退職後に加入する保険の種類や、任意継続や扶養への切り替えなどの選択肢によっても支払い額が変わるためです。
まずは制度を正しく知り、自分の状況に合う退職日を考えることが大切です。
誤解を避けるためにも、退職日と社会保険料の関係を整理して判断しましょう。

退職日と社会保険料の関係
社会保険料は「退職日がいつか」で負担が変わる仕組みです。
健康保険や厚生年金、雇用保険は会社と従業員が折半して支払う制度で、資格喪失日は退職日の翌日になります。
保険料は日割りではなく月単位で計算され、資格取得日の属する月から資格喪失日の前月までが支払い対象です。
たとえば月の途中で退職すると、その月は加入期間に含まれないため、当月分の保険料はかかりません。
一方、月末に退職した場合は退職月も加入扱いとなり、当月分まで負担する形になります。
退職日によって支払う期間が変わる点を押さえることで、社会保険料の仕組みが理解しやすくなります。
退職日における社会保険料負担の例
退職のタイミングによって、社会保険料の負担は少し変わります。
ここでは、月末に退職する場合と月の途中で退職する場合を取り上げ、それぞれでどの月まで保険料が発生するのかを分かりやすくまとめました。
月末に退職した場合、退職月まで
月末に退職した場合は、その月いっぱい社会保険に加入していた扱いとなり、退職月分の保険料がかかります。
資格喪失日は翌月1日となるためです。
たとえば10月31日に退職すると、10月分の保険料を負担する形になります。
また、多くの企業は当月分の保険料を翌月の給与で控除するため、支給日によっては1回の給与から2カ月分がまとめて差し引かれるケースもあります。
なお、退職日が平日でも休日でも保険料の計算方法は変わりません。
月末退職の仕組みを理解しておくと、控除額を確認しやすくなります。
月中に退職した場合、前月分まで
月の途中で退職すると、当月分の社会保険料は発生しません。
資格喪失日が退職日の翌日となり、支払い対象はその前月分までに限定されるためです。
たとえば11月14日に退職した場合、資格喪失日は11月15日となり、11月分の保険料は不要となります。
この場合、控除されるのは10月分までです。
月末退職との違いを理解しておくと、手取り額の見通しが立てやすくなります。
月末の1日前の退職した場合、前月分まで
月末の1日前に退職した場合も、当月分の社会保険料は発生しません。
資格喪失日が退職日の翌日となり、当月は加入期間に含まれないためです。
負担するのは前月分までとなり、月中退職と同じ扱いになります。
たとえば10月30日に退職すると、資格喪失日は10月31日となり、控除されるのは9月分までです。

退職日以降に加入が必要な社会保険の種類
退職後は、それまで会社で加入していた社会保険を自分の状況に合わせて切り替える必要があります。
手続きは、転職先もしくは自分で行います。
ここでは、健康保険や年金保険を中心に、どの制度へ移行できるのかを整理し、それぞれの特徴を分かりやすく紹介します。
社会保険の全体像をつかみ、退職後の準備をスムーズに進めましょう。
健康保険
退職後の健康保険は、どの制度に入るかで負担や手続きが変わります。
加入先は次の4つから選びます。
- 健康保険の任意継続
退職前に加入していた健康保険を最長2年間続ける制度。手続きは自分で行う。 - 転職先の健康保険
新しい勤務先で社会保険に加入する方法。手続きは会社が担当する。 - 国民健康保険
会社の保険に入らない場合に、市区町村で加入する制度。手続きは自分で行う。 - 家族の扶養に入る
配偶者や家族の健康保険の被扶養者になる方法。自分で保険料を負担しない。
転職先の健康保険以外は、いずれも自分で手続きを進める必要があるため、早めに準備しておくと安心です。
ここからは、それぞれの方法について詳しく解説していきます。
健康保険の任意継続
任意継続は、退職後も最長2年間だけ在職時の健康保険を使える制度です。
被保険者期間が2カ月以上あり、退職日の翌日から20日以内に申請することが条件です。
会社負担がなくなるため保険料は全額自己負担となりますが、独自給付がある健康保険を利用していた人や、扶養家族の保険料を抑えたい人には大きなメリットがあります。
一方で、給付の一部が受けられなくなる点や、期間が限定される点は注意が必要です。
転職先の健康保険
転職先で社会保険へ加入する場合は、入社後に新しい健康保険へ自動的に切り替わります。
会社が手続きを進めるため、本人が行う作業は多くありません。
退職時には健康保険証を返却し、必要に応じて「資格喪失証明書」を受け取ります。
退職後に国民健康保険へ切り替える場合、この証明書が必ず必要です。
転職先で再加入の手続きが終わると、新しい保険証が会社または保険者から交付されます。
国民健康保険
国民健康保険は、退職後に会社の健康保険へ加入しない人が利用する制度です。
市区町村が運営しており、加入手続きは自分で行います。
退職後に空白期間が生じる場合や、個人事業主として働く人が対象となります。
保険料は前年の所得を基準に算定されるため、金額が人によって大きく変わります。
たとえば収入が少ない年は保険料が軽くなることもあります。
加入後は地域の窓口で保険証が発行されます。
手続きの期限があるため、退職が決まった段階で必要な書類を確認しておくことが大切です。
家族の扶養に入る
家族の扶養に入る方法は、保険料の負担を抑えたい人に有効です。
一定の条件を満たすと、家族が加入している健康保険の被扶養者として扱われ、保険料を自分で支払う必要がなくなります。
たとえば年収が130万円未満で、家族の収入が自分より十分高い場合に認められることがあります。
一方で、収入が基準を超えると扶養から外れるため、勤務時間や働き方に制限が生じる点は注意が必要です。
また、扶養に入ると国民年金の保険料は不要になりますが、将来受け取る年金額が少なくなる可能性があります。
制度の特徴を理解し、自分に合った加入方法を検討しましょう。
年金保険
退職後は、状況に応じて加入する年金制度が変わります。
主な選択肢は次の2つです。
- 転職先の厚生年金
- 転職後に社会保険の加入条件を満たす場合に適用
- 会社が手続きを行い、保険料は給与から天引き
- 在職中と同じ扱いで年金記録が引き継がれる
- 国民年金
- 離職期間がある場合や自営業・フリーランスとして働く場合に加入
- 手続きは自分で市区町村へ行う
- 保険料は全額自己負担
- たとえば1カ月無職期間があれば、その期間のみ国民年金に切り替える必要がある
退職後の働き方によって最適な制度は変わるため、早めに加入先を確認しておくと安心です。
ここからは、それぞれの年金について詳しく解説します。
転職先の厚生年金
転職先で社会保険へ加入する場合は、厚生年金にそのまま加入する形になり、個人の手続きはほとんど発生しません。
厚生年金は国民年金の上乗せとして働き、保険料は会社と折半で負担します。
給与に応じて保険料が決まり、将来の年金額にも反映される仕組みです。
たとえば4月1日に入社する場合、前職を3月末で退職していれば、切り替えの手続きは転職先が行います。
一方、転職までに期間が空く場合は国民年金へ切り替える必要があり、退職日の翌日から14日以内に市区町村で申請します。
国民年金
退職後に離職期間がある場合や、自営業として働く場合は国民年金へ切り替える必要があります。
国民年金は20〜60歳の全国民が対象で、保険料は全額自己負担です。
たとえば1カ月だけ無職期間がある場合でも、その期間分は加入が求められます。
手続きは退職日の翌日から14日以内に、市区町村の窓口で行います。
必要書類には、基礎年金番号を確認できる書類や離職票などが挙げられます。
加入が遅れると未納扱いになるため、早めに準備しておきましょう。
社会保険と退職日の注意点
退職日の選び方は、社会保険料の負担や手続きの流れに影響します。
ここでは、退職前に押さえておきたいポイントを詳しく解説します。
- 保険の切り替えには期限がある
- 具体的な保険料を事前に調べる
保険の切り替えには期限がある
健康保険の切り替えには期限があり、退職後の手続きが遅れると負担が大きくなる可能性があります。
まず、退職日の翌日は社会保険の資格喪失日となり、この日から新しい保険制度へ移行する準備が必要です。
会社は退職後5日以内に資格喪失の届出を行い、本人には健康保険資格喪失証明書を交付します。
国民健康保険へ切り替える場合、退職者は資格喪失日の翌日から14日以内に市区町村で加入手続きを行います。
たとえば9月1日が資格喪失日なら、9月14日までが手続き期限です。
遅れると未加入期間が生じ、医療費を一時的に全額負担するリスクがあります。
また、国民健康保険料は資格喪失日まで遡って計算されるため、期間が空くほど請求額が大きくなる点にも注意が必要です。
期限を把握したうえで、早めに切り替えを進めることが大切です。
具体的な保険料を事前に調べる
退職後の負担を把握するには、どの保険に加入するかを決める前に保険料を調べておくことが重要です。
制度ごとに負担額が大きく変わるため、比較しながら検討する必要があります。
- 任意継続
・退職前の健康保険を最長2年間継続
・保険料は全額自己負担
・健康保険組合ごとに保険料が異なる - 国民健康保険
・市区町村が運営
・前年所得に基づいて保険料を算定
・自治体ごとに保険料が変わる - 家族の扶養に入る
・条件を満たせば保険料の自己負担なし
・扶養基準(年収130万円未満など)を確認する必要がある
退職後の保険料を見積もる際は、まず加入候補となる制度の保険料をそれぞれ調べることが大切です。
市区町村の保険料シミュレーションや健康保険組合の保険料表を参考にすると、負担額の違いが把握しやすくなります。
また、転職までの期間や退職後の収入見込みを踏まえて比較すると、どの制度が無理なく続けられるか判断できます。
扶養に入れるかどうかも重要な要素となるため、家族の加入状況も併せて確認しておくと安心です。
月末退職に関するよくある質問
最後に、月末退職に関するよくある質問を3つ紹介します。
- 月末以外に退職した場合はすぐに保険に入れるの?
- 月末以外に退職しても、翌日から転職先で働く場合は、その日から新しい会社の社会保険へ加入できます。
たとえば10月12日に退職し、10月13日に入社する場合、前職では9月分までの保険料を負担し、10月分は新しい勤務先で支払う形になります。
一方、入社日が決まっていない期間があると、その間は会社の社会保険に加入できません。
この場合、退職日の翌日から国民健康保険や国民年金へ自分で申し込み、必要な保険料を支払う必要があります。
保険が途切れると医療費の全額自己負担などのリスクが生じるため、退職と入社の日程が空く場合は、早めに手続きを進めておくことが大切です。
- 月末に退職したほうが良いケースはある?
- 月末に退職したほうが良いケースは、加入する保険の種類や家族構成によって負担額が変わる場合です。
国民健康保険や国民年金に切り替える予定があり、保険料が前年所得や扶養人数で決まる人は、月末退職のほうが有利になることがあります。
国民健康保険は自治体ごとに計算方法が異なるため、同じ職場の同僚と状況が同じとは限りません。
たとえば扶養家族が多い場合、月末退職によって翌月の負担が軽くなるケースもあります。
また、会社員として加入できる厚生年金は、障害年金の対象範囲が広いなど保障が手厚い点も特徴です。
制度に加入している間は「もしも」の際のリスクに備えやすいため、この側面を重視して月末退職を選ぶ考え方もあります。
手取り額だけで判断せず、家族全体の保険料や保障内容を踏まえて退職日を決めることが大切です。
- 退職後に社会保険料を請求された場合の対処は?
- 退職後に社会保険料の請求が届いた場合でも、まず落ち着いて仕組みを確認することが大切です。
社会保険料は「資格喪失日の前月分まで」発生し、納付義務は会社にあります。
そのため、退職月の給与で控除しきれなかった分が後から請求されることがあります。
たとえば月末退職の場合、その月の保険料が発生しますが、最終給与の支給額が少ないと控除できず、退職後に本人負担分だけ請求されるケースがあります。
一方、月中で退職した場合は前月分までが対象になるため、追加請求が生じにくい仕組みです。
支払いが必要な理由が不明なときは、退職日の扱いや給与の締め日、控除のタイミングを確認すると状況を整理しやすくなります。
請求内容に誤りが疑われる場合は、前職の担当部署に照会し、控除履歴を確認しましょう。
まとめ
退職日による大きな損得は、実際のところ多くありません。
月末退職と月中退職では社会保険料の扱いが異なりますが、差が出るのはあくまで一時的な負担だけです。
退職後に選ぶ健康保険や年金の制度、収入の見通しによって総額は変わるため、日付だけで有利・不利が決まるわけではありません。
大切なのは、切り替えの期限や必要な手続きを理解し、自分の状況に合う制度を選ぶことです。
この記事を参考に、社会保険の仕組みを把握したうえで退職日を検討しましょう。


