労災保険は、労働者が業務中や出退勤時に傷病があった場合、受け取ることができる保険制度です。
労働中の傷病が対象になる「業務労災」と、通勤中の怪我が対象になる「通勤労災」があり、条件が規定されています。
「労災保険は自己都合退職後に継続してもらえるの?」「労災の申請を拒否された場合は?」と疑問に思っていませんか?
結論から言いますと、自己都合で退職した後でも、労災保険を受給し続けることが可能です。
会社側に労災の申請を拒否された場合は、原因を労働基準監督署に理解してもらえれば、労災保険を受給できます。
今回は、自己都合退職後の労災保険の受給条件や注意点について、労災保険を受給した経験がある私がご紹介していきます。
本記事を読むことで、退職後に労災保険を受け取る方法がわかり、経済的な不安を軽減できますよ。
労災とは?
労災とは、労働者災害補償保険の略で、勤務中や出退勤の途中に怪我や事故などにあったときに、保険金を受けられる制度のことです。
労働者を一人でも雇う場合、企業には労災に加入する義務が発生します。
労働者側に保険金を支払う義務はなく、企業側がすべての掛け金を支払う点が特徴です。
労災の補償内容は、具体的に以下の5つです。
- 療養補償給付:病院で診察・治療を受けるときに受給できる
- 遺族補償給付:労働者が亡くなったときに遺族が受給できる
- 休業補償給付:働けなくなったときに受給できる
- 障害補償給付:体に障害が残ったときに受給できる
- 介護補償給付:介護が必要な状態になったときに受給できる
出退勤途中や勤務中に発生した事故や怪我などが主な対象でしたが、近年ではストレスによる精神的な病気に対して労災を支払うケースもあります。
労災保険の給付条件
労災保険が給付される条件は、以下の2つによって異なります。
- 業務労災
- 通勤労災
ここから具体的に解説します。
業務労災
業務労災とは、仕事中に起こった病気や怪我、死亡などのことで、労働者が病気や怪我などを負ったのは業務が原因だとされる点が特徴です。
業務労災が給付されるためには、以下のうちいずれかの条件を満たすことがポイントです。
- 業務遂行性:事業主の管理・監督の下で発生した事故であること
- 業務起因性:危険な業務が原因で発生した事故であること
工場で作業中に機械に手足を挟まれたり、高所作業中に落下して体に障害を負ったりした場合、労災として認められる可能性が高いです。
通勤労災
通勤労災とは、出退勤の途中で事故に遭遇し、怪我などをすることです。
通勤労災として認められる状況とは、具体的に下記の通りです。
住居地と職場の移動 | 住んでいるアパートや自宅などと、会社間の往復時に発生した事故直行直帰の営業職の場合、最初の取引先と最後の取引先が対象 |
仕事場の移動 | 打ち合わせ場所に向かうときや、管轄する店舗に移動するときなどが対象 |
引っ越しのための移動 | 転勤となり、家族と離れ単身赴任せざるを得ない場合が対象 |
会社から住居地まで往復するときに、普段とは異なる通勤手段を選択し事故にあった場合でも、労災を認定してもらえる可能性は高いです。
ただし、通勤路から逸脱していないことが重要なポイントになります。
自己都合で退職しても引き続き労災保険はもらえる
自己都合で退職したあとも、労災保険を受給し続けることは可能です。
労働基準法83条により、以下のように定められているためです。
補償を受ける権利は、労働者の対象によって変更されることはない
出典:e-Gov
労災保険とは、怪我や病気などにより、働けない状態にある労働者を支えることが目的であることから、退職したあとでも受給できる点が特徴です。
労災が原因で休職中に定年退職を迎えた場合でも同様で、労災保険の受給を継続できます。
どのような理由であれ「退職すると労災を受給できなくなるのではないか」と心配する必要はありません。
自己都合で退職した後に労災の申請はできる?
条件を満たす必要はありますが、自己都合で退職した後でも労災の申請は可能です。
以下のように、自己都合のみでなく会社都合による退職の場合でも申請できます。
- 定年退職
- リストラ
- 倒産など
退職後に労災の申請をするには、労働基準監督署に書類を提出する必要があります。
労災の申請をするにあたって、退職先の会社に記入してもらわなくてはいけない箇所もある点は注意が必要です。
ない場合でも申請はできますが、労災の認定が下りにくくなるとされています。
労災の申請が終わっていない状態で退職するときは、申請書の記入に協力してもらえるのか、会社側に確認しておくことが望ましいです。
労災を申請ができる期間は定められており、もし期間を過ぎると申請できなくなります。
労災の申請を拒否された場合の対処法
労災の申請をしたものの、会社側に拒否されたケースでは、申請書類の「事業主の証明」の欄を空欄のまま提出しましょう。
前述の通り、退職した後に労災を申請する場合、会社側に協力してもらえないケースもあります。
事業主の証明が得られていない原因を労働基準監督署に理解してもらえれば、労災を受給できます。
労災の認定をするのは会社ではなく、労働基準監督署で、会社側に拒否された場合でも諦める必要はありません。
労災が発生している場合でも、会社が労働基準監督署に報告しなかったり、嘘の事実を報告したりすることは違法になります。
労災を隠すことは本来あってはいけないことで、労働基準監督署に対し、会社側に非があることを訴えることが望ましいです。
労災問題が解決できないとお悩みの方の場合、弁護士に相談するのも1つの方法です。
労災保険と失業保険は同時にもらえないので注意しよう
退職後に労災を受給する場合、失業保険も受給したいと考える方もいるかもしれませんが、同時には受給できません。
以下の通り、労災保険と失業保険には相反する目的があるためです。
- 労災保険:病気や怪我などにより、働けない状態にある方を支援するもの
- 失業保険:今すぐに働ける状態でありながら、本人やハローワークの努力によっても就業できない方を支援するもの
労災保険の条件を満たす方は、失業保険の条件を満たせないことがわかります。
労災により休職することもあるかも知れませんが、罪悪感から退職しない点がポイントです。
自己都合による退職扱いとなり、もし労災を受給できない場合、本来であれば受給できる手当を受けられなくなるためです。
労災で休職している方を会社都合で解雇することはできない、と法律で決められていることからも、労災で休職しても退職しないでおきましょう。
労災保険は派遣やアルバイトでももらえる?
労災保険は派遣やアルバイトの方でも受給できます。
労災保険とは、仕事に従事する労働者全員が対象となる保険のためです。
ただし、派遣社員の場合は雇用元が派遣会社で、派遣会社の労災保険を適用する点が特徴です。
労災が発生した後に病院を受診するとき、労働基準監督署で指定の請求書を作成します。
派遣社員の場合、派遣会社が請求書の作成をした後で、派遣先の会社に対して確認してもらう時間が発生します。
他の労働者に比べ、保険を受給できるまでに時間がかかりやすくなることから、早めに病院を受診し、手続きを進めることが望ましいです。
まとめ
ここまで、労災の特徴や給付条件、退職した後の申請方法や断られたときの対処方法について解説してきました。
本記事のまとめは以下の通りです。
- 労災とは、勤務中や出退勤の途中で怪我や事故に遭った場合、保険を受給できる制度のことである
- 労災保険の給付条件は、業務労災と通勤労災によって異なる
- 自己都合で退職しても引き続き労災を受給できる点に関しては、法律で制定されている
- 自己都合で退職した後でも、労働基準監督署に書類を提出すれば、労災の申請が可能である
- 労災の申請を拒否された場合は、申請書類の「事業主の証明」の欄は空白で提出すればよい
- 条件が異なることから、労災保険と失業保険は同時に受給できない
- 労災保険は派遣やアルバイトの方も受給できる
労災保険とは、どのような理由で退職しても受給し続けられるもので、生活面での不安を感じる必要はありません。
本記事を参考に、労災について理解していただければ幸いです。