様々な要因からうつ病になってしまう方も多く、業種・職種によってうつ病になりやすい環境もあります。
うつ病になったら転職した方がいいのかと今後のことを考えて検討している方もいるのではないでしょうか。
結論から言いますと、いきなり転職を選ぶのではなくまずは休職制度を活用しましょう。
本記事ではうつ病と転職に関する話題を中心に、転職する際のポイント、無理なく働ける転職先の特徴などをまとめました。
うつ病などの精神障害の人の就職は難しい
うつ病などの精神障害を抱える人の就職は、依然として難しい状況にあります。
厚生労働省の統計によると、精神障害者の申込後就職率は43.8%にとどまり、約半数が就職に至っていません。
背景には、体調の波や勤務環境への配慮が必要であること、受け入れる企業側に十分な理解や体制が整っていないことが挙げられます。
一方で、2018年の障害者雇用促進法改正をきっかけに、民間企業で働く精神障害者の数は増え続けています。
法定雇用率も2026年には2.7%へ引き上げが予定されており、雇用の場は少しずつ広がっています。
また、コロナ禍で落ち込んだ求人も回復傾向にあり、特に短時間勤務が可能な製造業やサービス業での採用が増えています。
まだ課題は多いものの、支援制度や雇用環境の改善により、うつ病の人も働きやすい社会へと着実に近づいているといえます。

うつ病だと就職が難しい理由
うつ病を抱えながらの就職活動には、いくつかの壁があります。
体調の波により勤務を続けにくいことや、職場での理解不足など、環境面の課題が大きいのが現状です。
ここでは、うつ病だと就職が難しい理由を3つ解説します。
- 配慮がとても難しい
- 対応ノウハウや経験を持つ管理職が少ない
- 職場定着率が低い
配慮がとても難しい
うつ病のある人が就職で苦戦しやすい大きな理由の一つは、「配慮の難しさ」です。
精神面の症状は目に見えにくく、周囲が状況を正確に把握することが難しいためです。
その結果、体調の変化に気づけず、無理をさせてしまうケースも少なくありません。
また、再発を防ぐためには業務量の調整や人間関係のストレス軽減など、細やかな配慮が必要です。
しかし、職場全体で理解が得られにくいと、十分な環境調整が行えないこともあります。
一方で、症状が安定して薬でコントロールできていれば、働き続けることも可能です。
ただし、躁うつ病や発達障害、統合失調症などを併発している場合は、さらに注意が求められます。
このように、うつ病は外見からは分かりにくく、個々の状態に合わせた対応が必要なため、職場での配慮が非常に難しいのです。
対応ノウハウや経験を持つ管理職が少ない
うつ病のある人の就職が難しい理由のひとつに、「対応ノウハウを持つ管理職の少なさ」があります。
精神的な不調への理解が不足していると、どのように接すればよいか、どの程度の配慮が必要なのかを判断するのが難しくなります。
たとえば、体調の変化への気づき方や、コミュニケーションの取り方、業務量の調整方法など、現場で求められるスキルは多岐にわたります。
しかし、こうした対応に慣れていない管理職にとっては、精神的な問題を抱える社員を受け入れること自体が不安材料となりやすいのです。
その結果、「理解できない理由で業務に支障が出るかもしれない」と考え、採用をためらうケースも少なくありません。
さらに、休職によるブランクや短期離職の経歴がある場合は、採用判断で不利になる傾向もあります。
このように、職場側の知識不足と経験不足が重なり、結果としてうつ病の人の就職機会を狭めているのが現状です。
職場定着率が低い
うつ病のある人は、職場への定着率が低い傾向にあります。
障害者職業総合センターの統計によると、精神障害者全体で「1年後も勤務を続けている人」は49.3%にとどまっています。
うつ病はその中でも特に再発リスクが高く、さらに低い割合であると考えられます。
企業にとって、長く働き続けてもらうことは採用の大前提です。
そのため、体調の波が読みにくく、休職や離職につながりやすい精神障害のある人は、採用判断で慎重にならざるを得ません。
一方で、同じ精神障害者保健福祉手帳を持つ発達障害のある人の定着率は71.5%と高く、この差が採用機会の不均衡にもつながっています。
つまり、うつ病の人が職場に定着しにくい現状が、採用側の不安を生み、結果的に「就職の難しさ」に拍車をかけているのです。
うつ病の人が転職する際におさえるべき3つのポイント
休職制度を活用するなどして冷静に考えた結果、やはり転職するべきだという判断になった方もいるでしょう。
その際に3つのポイントを踏まえて判断していきましょう。
- 仕事のストレス要因を知る
- 自分に合った仕事を見つける
- 無理をして働こうとしない
ここからは転職時におさえておきたい3つのポイントについてご紹介します。
仕事のストレス要因を知る
うつ病の再発を防ぎながら転職を成功させるには、まず自分の「ストレス要因」を正しく知ることが大切です。
原因を整理しないまま転職しても、同じ悩みを繰り返すおそれがあります。
ストレスを感じやすい要因には、次のようなものがあります。
- 長時間労働:休息が取れず、疲労が蓄積しやすい
- 人間関係のトラブル:上司や同僚との摩擦がストレスになる
- 業務内容の不一致:スキルや体調に合わない仕事を続ける負担
- ノルマや評価プレッシャー:成果重視の環境で心が追い込まれる
過去の経験を振り返り、どんな環境で不調を感じたのかを明確にすることが第一歩です。
必要に応じて、医師やカウンセラー、就労支援機関に相談すると、客観的な視点で整理できます。
こうして自分のストレス構造を理解しておくことで、無理のない職場選びにつながり、再発防止にも効果的です。
自分に合った仕事を見つける
うつ病と向き合いながら働くには、「自分に合った仕事」を選ぶことがとても大切です。
無理のある環境を選んでしまうと、ストレスがたまりやすく、体調を崩してしまうこともあります。
まずは、「どんな働き方なら安心して続けられるか」を考えてみましょう。
たとえば、静かな職場で集中できる仕事や、在宅勤務ができる職種など、自分のペースを守れる環境を選ぶのがおすすめです。
また、障害者雇用や就労支援サービスを利用すれば、専門スタッフと一緒に、自分の体調や特性に合う仕事を探すこともできます。
焦らず、自分に合った働き方を見つけていくことが、長く安定して働くための第一歩です。
無理をして働こうとしない
うつ病になる方はマジメな人が多く、ついつい無理をしてしまう傾向にあります。
一時的に無理をしないと仕事が捌けないケースもありますが、あくまでも一時的です。
限界以上に働き続けることでその反動は必ず出てしまいます。
「次の職場では無理をして働くのは控える」というスタンスが大切です。

うつ病の人が無理なく働ける転職先の特徴は?
病気のことを考えても無理なく働きたいと考えた場合、そもそも「無理なく働ける転職先」とはどんなところなのか不思議に思う方もいるはずです。
無理なく働ける転職先の特徴は以下の通りです。
- 自分のペースを乱されず働ける職場
- 在宅ワークが可能な仕事
- 障害者雇用も検討する
ここからは無理なく働ける転職先の特徴についてご紹介します。
自分のペースを乱されず働ける職場
うつ病の治療や改善には時間がかかり、薬を飲んですぐに治る病気ではありません。
だからこそ、自分のペースを守って働き続けられることが大切です。
職場探しにおいても、自分のペースを乱されずに働けるかどうかがポイントになります。
ノルマなどがあるとなかなか自分のペースを守るのは大変なので、ノルマがない仕事などを選ぶのも1つの手です。
在宅ワークが可能な仕事
うつ病に限らず、精神疾患はストレスが原因となることが多く、人間関係が影響するケースがあります。
在宅ワークであれば人の目を気にせず働けますし、人間関係もそこまで濃密にはなりません。
また自分のペースで働くこともできるため、在宅ワークだと自由に働きやすくなります。
在宅ワークでもできる仕事を見つけ、できるだけ完全リモートで済むものを選びましょう。
障害者雇用も検討する
「うつ病の治療に時間がかかる、だけど働かないといけない」という場合に検討すべきなのが障害者雇用枠での就職です。
障害者雇用枠は、一定の従業員以上を雇用している企業が、最低1人以上雇用しなければならないというルールです。
障害者雇用枠で就職できれば、うつ病の治療・通院、仕事内容に関して配慮をしてもらいやすく、一般枠よりも格段に働きやすくなります。
枠を利用するには精神障害者保健福祉手帳が必要となるため、事前の手続きが必要です。
うつ病で転職する際に利用できる就労サービスは?
うつ病で転職する際には様々な就労サービスがあるため、積極的に活用していきましょう。
- ハローワーク
- 地域障害者職業センター
- 就労移行支援事業所
うつ病の方が利用できる就労サービスについてご紹介していきます。
ハローワーク
ハローワークには障害者を対象とした窓口があり、うつ病などの精神障害者も対象となります。
将来的に障害者雇用枠での就職を目指す際に、どのような段取りで就職活動をしていけばいいかをレクチャーしてくれます。
また障害者雇用枠の求人もハローワークであれば様々用意されているため、条件に応じて見つけていくことも可能です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは障害者の方の就職などをサポートする行政機関です。
ハローワークなどと連携し、障害を抱えながらも就職や職場復帰を検討する方を支えていくのが狙いです。
地域障害者職業センターは全国にあるため、お近くの地域障害者職業センターを利用しながら就職活動を行うことができます。
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所は国からの支援を受けつつ、障害を抱える方などの就職をサポートしていく場所です。
就労移行支援事業所を利用することで、就職に欠かせないスキルのほか、毎日働く習慣などを身につけていくことができます。
うつ病も落ち着いて症状が安定してきた中で、社会復帰に向けてリハビリの段階に入りたい方にぴったりの場所となります。
うつ病の人が利用できる給付金や支援制度とは?

うつ病になっている方が活用できる給付金や支援制度は多く存在します。
- 傷病手当金
- 自立支援医療(精神通院医療)
- 障害年金
- 障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)
ここからはうつ病の人が利用できる給付金や支援制度をご紹介します。
傷病手当金
うつ病で休職する場合に受け取ることになるのが傷病手当金です。
最大1年6か月受け取り続けられるほか、条件次第では退職後も受け取ることができます。
休職中も一定の手当がもらえるため、少なくとも最低限の生活を維持し続けることは可能です。
自立支援医療(精神通院医療)
自立支援医療(精神通院医療)はうつ病の治療にかかる費用を軽減できる制度です。
本来病院に行くと治療費用として3割の自己負担分が必要となります。
しかし、自立支援医療(精神通院医療)であれば自己負担分が1割で済みます。
経済的な負担を増やしたくないからと治療を受けるのを我慢するといったことを避けられる、素晴らしいシステムです。
障害年金
重いうつ病になった場合に受け取れる可能性が出てくるのが障害年金です。
障害年金はうつ病などを原因に働けなくなる、もしくは仕事に制限が出る場合に受け取れます。
うつ病になった結果、社会生活にどれだけの影響を及ぼしているかを医師が診断し、その結果、受け取れるかどうかが決まります。
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)は障害を抱えている人に与えられる手帳です。
障害者手帳には身体障害者手帳や療育手帳があり、うつ病の方は精神障害者保健福祉手帳が与えられます。
この手帳があることで行政サービスなどで優遇を受けられるため、手帳がもらえそうな方は早めの申請がおすすめです。
うつ病になった場合、転職するべき?

うつ病になると、「もうこの職場で働けないのではないか」と悲観して転職を検討する人もいるはずです。
まずはすぐに決断を出そうとせず、しっかりと休んでからでも十分間に合います。
いきなり転職ではなく休職制度を利用しよう
うつ病になると、焦燥感や不安感などの症状が強く出やすい傾向にあります。
そのため、不安な気持ちの中でネガティブな事を考えやすく、「転職しかありえない」などの判断をしがちです。
冷静な判断がなかなかしにくいことから、まずはしっかりと休養をとることが求められます。
そのためにもまずは休職制度を活用し、一定期間休養に専念することがおすすめです。
症状が改善していく中で「もう少し頑張ってみたい」という気持ちが芽生えてくれば、転職を思いとどまることができます。
もちろん今後のことを考えて転職する道もありますが、いずれにしても冷静な状況で判断するためにも休職制度の活用が必要です。
うつ病と転職に関するよくある質問
うつ病と転職に関してよくある質問を最後にご紹介します。
- 障害者雇用は手帳なしでも利用できる?
- うつ病で転職するデメリットは?
- 転職してうつ病が再発したらどうすればいい?
- Q:障害者雇用は手帳なしでも利用できる?
- 障害者雇用枠を利用して就職する場合、原則として「障害者手帳」が必要です。
手帳を持っていない人は、求人への応募や採用の対象にならないため注意が必要です。
ただし、手帳をまだ取得していない段階でも、ハローワークや就労支援機関での相談は可能です。
診断書をもとに、今後の手帳申請や働き方の方向性についてアドバイスを受けることができます。
実際に障害者枠で応募できるのは、次のいずれかに該当する人です。
・すでに障害者手帳を持っている人
・今後、手帳の取得を予定している人
このように、障害者雇用の求人を利用するには、手帳の有無が重要な条件となります。
- うつ病で転職するデメリットは?
- うつ病の状態で転職する場合、いくつかのデメリットがあります。
最大のリスクは、環境の変化によって症状が悪化したり、再発する可能性があることです。
新しい職場では人間関係や業務内容に慣れるまで時間がかかり、精神的な負担が大きくなる傾向があります。
また、ブランクや休職歴があると、採用時に不利になるケースも少なくありません。
特に、面接で体調面をどう伝えるかに悩む人も多いです。
さらに、就職後に十分な配慮が得られないと、再び休職に至るリスクもあります。
そのため、転職を考える際は、体調が安定しているかを確認し、無理のないペースで進めることが大切です。
- 転職してうつ病が再発したらどうすればいい?
- うつ病は再発しやすい病気なので、転職先で再発する可能性は十分に考えられます。
この場合、休職が可能であれば休職を行うのがおすすめです。
傷病手当金の受け取りも、1年程度職場復帰を果たしていれば、再び受け取ることは可能です。
再発するかもしれないと不安になっている方は各種支援サービスを利用しながら転職先を前もって探していくのが確実です。
まとめ
今回はうつ病の人が転職する際のポイントについてご紹介しましたが、最後に今回ご紹介した内容を振り返ります。
- うつ病になったらまずは休職制度を活用する
- うつ病の人が転職する際にはまず治療を行う
- 自分のペースを乱されず、できれば在宅ワークが可能な仕事を選ぶ
- 障害者雇用を視野に入れた転職活動も検討する
- うつ病の人が利用できる給付金や支援制度も積極的に活用した方がいい
うつ病になると、薬物療法や認知行動療法などを行って、完全に治療が完了するまでに相当な時間を要します。
理想的なのは、治療が完了するまで休職し続けることですが、現実問題としてなかなか難しいのが実情です。
うつ病の状態が重い場合などは障害者手帳を取得して障害者雇用枠を活用していくことも1つの方法です。
その上で、しっかりと配慮をしてくれるであろう企業を見つけ、無理をしない中で仕事を行っていくのが大切です。
まずは無理せず、治療に専念し、将来的なことを考えられるようになってから転職活動を始めていきましょう。



