傷病手当金を受け取りながら療養している人の中には、症状が長引き、障害年金の対象になるのではないかと考える人もいます。
一方で、障害年金と傷病手当金を同じ時期に受け取れるのか、金額が減ってしまうのではないかと不安に感じる人も少なくありません。
実際には、同一の傷病かどうかや、受け取る年金の種類によって併給調整の扱いが変わります。
本記事では、障害年金と傷病手当金を同時に受け取れるかどうかの結論と、併給調整の計算方法、申請時の注意点を解説します。
退職や休職を控えている人にも関わる内容のため、ぜひ参考にしてください。

傷病手当金をもらいながら、障害年金も同時にもらえるのかな…?

もし両方もらえなかったら、これからの生活費が心配で仕方ない…
本記事では上記の疑問やお悩みなどにお応えします。
- 障害年金と傷病手当金を同時に受け取れるかどうかの結論
- 同一傷病か別傷病かで併給調整が変わる仕組み
- 障害厚生年金と傷病手当金の差額計算の考え方
- 障害年金が遡及決定された場合の返還リスク
- 傷病手当金から障害年金へ切り替えるタイミングの注意点
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傷病手当金と障害年金、それぞれの受給条件をおさらい
傷病手当金と障害年金は、根拠となる法律も申請先も異なる別々の制度です。まず、それぞれの基本的な受給条件を確認します。
傷病手当金は、在職中の被保険者が病気やけがで一時的に働けなくなったときの生活を支える健康保険の給付です。これに対して障害年金は、病気やけがによって一定以上の障害の状態が続くと見込まれるときに、より長期的な生活を支える公的年金の給付です。両者は目的も財源も異なりますが、同じ傷病がきっかけで、どちらの制度にも該当する状況が生まれることがあります。
傷病手当金の支給要件と支給額の計算方法
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の事由による療養のため働けなくなったときに支給される制度です。
支給が始まるのは、働けなくなった日から連続する3日間の待期期間を経た4日目以降とされています。待期の3日間には、有給休暇や土日などの公休日も含めることができます。
支給額は、1日につき支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均額を30で割った額の3分の2に相当する金額です。被保険者期間が12か月に満たない場合は、その期間の平均額と、加入している保険者全体の平均額のいずれか低いほうを基準に計算されます。
支給を受けられる期間は、同一の傷病について支給開始日から通算して1年6か月です。令和4年1月1日の制度改正により、途中で就労するなどして傷病手当金が支給されない期間があっても、その分を繰り越して受け取れるようになりました。
障害基礎年金・障害厚生年金の受給要件
障害基礎年金は、国民年金加入期間中に初診日があること、または20歳前や60歳以上65歳未満で年金制度に未加入の期間に初診日があることなどが前提です。そのうえで、障害認定日に1級または2級に該当し、保険料納付要件を満たす必要があります。
保険料納付要件は、原則として初診日の前々月までの加入期間のうち3分の2以上の保険料が納付または免除されていることです。初診日が令和18年3月末日までの場合は、直近1年間に未納がなければよいとする特例もあります。
障害厚生年金は、厚生年金保険の被保険者期間中に初診日があること、障害等級表の1級から3級のいずれかに該当すること、保険料納付要件を満たすことが条件です。
令和8年4月分からの年金額は、障害基礎年金が1級1,059,125円、2級847,300円(昭和31年4月2日以後生まれの場合の年額)です。子がいる場合は加算額も加わります。
障害厚生年金は、1級が報酬比例の年金額の1.25倍に配偶者加給年金額を加えた額、2級が報酬比例の年金額に配偶者加給年金額を加えた額、3級が報酬比例の年金額(最低保障額635,500円)となっています。年金額は年度ごとに改定されるため、実際の金額は請求時点のものを確認する必要があります。

障害年金と傷病手当金は同時にもらえる?併給調整の基本ルール
結論として、同じ傷病について障害厚生年金を現実に受け取っている場合、傷病手当金は原則として支給されません。ただし、年金の日額が傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が支給されます。
この扱いは健康保険法第108条第3項に定められており、年金が優先され、傷病手当金は補完的な位置づけになっています。
同一の傷病か別の傷病かで扱いが変わる
併給調整の対象になるのは、同一の傷病またはこれにより発した傷病について年金を受け取っている場合に限られます。
したがって、傷病手当金の支給理由となった傷病と、障害年金の支給理由となった傷病が別のものであれば、この規定による調整の対象にはならないと考えられます。個別の判断が必要になるため、迷う場合は保険者に確認することをおすすめします。
障害基礎年金のみを受給している場合の扱い
条文上、併給調整の対象として明記されているのは厚生年金保険法による障害厚生年金です。障害基礎年金は、同一の支給事由に基づく障害厚生年金を受け取っているときに、その額と合算して判定される位置づけになっています。
障害基礎年金のみを受給しているケース(国民年金加入期間中に初診日がある場合など)を併給調整の対象とする明文の規定は確認できませんでした。この場合は調整の対象外となる可能性がありますが、正確な取り扱いは加入している健康保険の保険者に確認することが望ましいといえます。
- 調整の対象になるのは同一傷病についての障害厚生年金
- 障害基礎年金は、同一支給事由の障害厚生年金がある場合に合算される
- 障害基礎年金のみの受給は、明文の調整規定が確認できていない
併給調整の対象になるのは「現実に支給されている」年金だけ
厚生労働省の通知により、傷病手当金と調整されるのは現実に支給されている障害厚生年金に限られるとされています。
他の年金との調整によって支給停止となっている障害厚生年金は、この併給調整の対象には含まれません。
同様の考え方は、障害手当金(一時金)や、退職後に傷病手当金の継続給付を受けている人が対象になり得る老齢退職年金給付についても及びます。障害手当金の場合は、それまでに支給した傷病手当金の合計額が障害手当金の額に達するまで、傷病手当金は支給されません。老齢退職年金給付の場合も年金が優先され、年金額が傷病手当金の額より少ないときに限り差額が支給される仕組みです。
傷病手当金と障害年金、どちらを優先すべきか迷ったときの考え方
傷病手当金と障害年金のどちらを先に請求すべきか迷う場合もありますが、実際には両方を同時に請求すること自体は可能です。
併給調整は、障害年金の支給が決定し、現実に年金が支給されるようになった段階で行われます。そのため、傷病手当金を受け取りながら障害年金を請求し、決定後に金額の調整を受けるという順番になるのが一般的な流れです。
どちらの制度も申請から支給までに時間がかかることがあるため、要件を満たす可能性があるなら、早めに窓口へ相談しておくことが望ましいといえます。

差額はいくら?併給調整の計算方法とシミュレーション
障害厚生年金と傷病手当金の差額は、年金額を360で割った日額をもとに計算します。
傷病手当金は日額で計算されるのに対し、年金は年額で支給されるため、比較のためにはどちらかを同じ単位にそろえる必要があります。健康保険法施行規則が年金額を360で割って日額に換算する方法を定めているのは、このためです。

日額の計算式(360で除する)
健康保険法施行規則第89条では、差額支給の判定に使う年金の日額を年金額(同一支給事由の障害基礎年金があるときはその合算額)を360で除して得た額と定めています。1円未満の端数は切り捨てられます。
ここでの「360」は、日数計算の基準として使われる数字であり、実際の1年の日数(365日や366日)とは異なる点に注意が必要です。
具体的な金額例で見る差額支給
あくまで計算のイメージをつかむための一例ですが、傷病手当金の標準報酬月額の平均が30万円だったケースで考えます。この場合、傷病手当金の日額は、30万円を30で割った1万円の3分の2で、約6,667円になります。
障害厚生年金の年額が90万円だった場合、日額は90万円を360で割った2,500円です。傷病手当金の日額(約6,667円)が年金の日額(2,500円)を上回っているため、その差額にあたる約4,167円が傷病手当金として支給される計算になります。
一方、同じ標準報酬月額30万円のケースでも、障害厚生年金の年額が240万円だった場合は、日額が240万円を360で割った約6,667円となり、傷病手当金の日額とほぼ同じ水準になるため、差額はほとんど生じない計算になります。
実際の金額は標準報酬月額や年金額によって大きく変わるため、この例はあくまで計算方法を理解するための目安です。
障害年金が遡及決定されたときの返還リスク
障害年金の請求から決定までには数か月かかることが多く、障害認定日にさかのぼって年金の支給が決まるケースがあります。
この場合、すでに受け取っていた傷病手当金の期間と、遡って支給される障害厚生年金の期間が重なることがあります。併給調整の規定は年金を優先する仕組みのため、重なった期間分については傷病手当金が本来受け取れる金額を超えて支払われていたことになり、精算や返還を求められる場合があります。
返還が必要になるかどうか、また具体的な金額は個別の状況によって異なるため、障害年金の決定通知を受け取ったら、早めに加入している健康保険の保険者へ連絡することが大切です。

傷病手当金から障害年金への切り替えタイミングの注意点

障害年金は、初診日から1年6か月後の障害認定日に等級に該当していれば請求できます。認定日の時点で等級に該当しなくても、その後症状が悪化した場合に改めて請求できる仕組みもあります。
ただし、65歳以降は原則として新たに請求できないとされているため、該当する可能性がある場合は早めに年金事務所へ相談しておくと安心です。
傷病手当金の支給期間は通算1年6か月であるのに対し、障害年金の障害認定日は初診日から1年6か月後です。起算点が「支給開始日」と「初診日」で異なるため、必ずしも同じタイミングにはならない点に注意してください。
障害年金の請求には、医師に作成してもらう診断書が必要です。傷病手当金の申請でも、労務不能の期間についての医師(歯科での療養の場合は歯科医師)の意見書が必要になるため、どちらの手続きでも主治医との連携が欠かせません。
退職・休職を検討している人が知っておきたい判断の流れ
傷病手当金は、在職中の被保険者であることを基本とした制度です。退職のタイミングによって、傷病手当金や社会保険の扱いが変わることがあります。
退職を検討している場合は、次のような点を合わせて確認しておくと判断しやすくなります。
- 現在の傷病手当金の支給開始日と、通算1年6か月の残り期間
- 退職後も傷病手当金の継続給付を受けられる条件を満たしているか
- 障害年金の障害認定日がいつ頃になりそうか
- 退職後の健康保険(任意継続・国民健康保険など)をどうするか
退職後も傷病手当金を受け取り続けられるかどうかは、資格喪失時点での被保険者期間など、一定の要件を満たしているかによって変わるとされています。要件を満たすかどうかは、加入している保険者に確認するのが確実です。
なお、国民健康保険の傷病手当金は任意給付とされており、実施していない市区町村が多いとされています。退職後に国民健康保険へ切り替える場合は、傷病手当金の扱いが在職中と変わる可能性がある点も踏まえて検討することが望ましいといえます。
個別の年金額や傷病手当金の額は人それぞれ異なるため、正確な金額を知りたい場合は年金事務所や社会保険労務士へ相談することも選択肢のひとつです。

障害年金・傷病手当金の申請手続きの窓口と必要書類
それぞれの制度で申請先が異なるため、順番に整理します。
障害年金の請求窓口
障害基礎年金は、市区町村の窓口または年金事務所で手続きします。障害厚生年金は、年金事務所やねんきんダイヤル、街角の年金相談センターで相談できます。
傷病手当金の申請窓口と必要書類
傷病手当金は、加入している健康保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合など)に申請書を提出します。申請書には、被保険者の記号・番号、傷病名と発病年月日、労務に服することができなかった期間、報酬の有無などを記載します。
あわせて、傷病の発生原因や経過、労務不能期間についての医師の意見書など、療養の状況を証明する書類の添付が必要です。具体的な様式や添付書類は保険者によって案内が異なることがあるため、申請前に加入先へ確認しておくと手続きがスムーズです。
傷病手当金と障害年金は同時に申請してよいか
傷病手当金と障害年金は、それぞれ別の制度であるため、同時に申請すること自体は問題ありません。
障害年金の審査には数か月かかることが一般的です。傷病手当金を受け取りながら障害年金の請求を進め、年金の支給が決定した段階で、保険者との間で必要な調整が行われる、という流れを理解しておくとスムーズです。
よくある質問
- 障害基礎年金だけを受給している場合も、傷病手当金は減額されますか?
- 条文上、併給調整の対象として明記されているのは障害厚生年金です。障害基礎年金のみを受給しているケースを調整の対象とする明文の規定は確認できていません。
そのため、原則として調整の対象外となる可能性がありますが、正確な取り扱いは加入している健康保険の保険者に確認することをおすすめします。
- 障害年金の審査中は、傷病手当金を通常どおり受け取れますか?
- 併給調整の対象になるのは、現実に年金が支給されている場合です。審査中でまだ年金が支給されていない期間は、通常どおり傷病手当金を受け取れるケースが多いとされています。
ただし、審査の結果、障害認定日にさかのぼって年金の支給が決まると、重なった期間の傷病手当金について精算や返還を求められる場合があります。
- 傷病手当金の支給期間(通算1年6か月)と、障害年金の障害認定日(初診日から1年6か月後)は同じタイミングになりますか?
- どちらも「1年6か月」という期間が出てきますが、起算点が異なります。傷病手当金は支給開始日から、障害年金の障害認定日は初診日から、それぞれ1年6か月で区切られます。
労務不能になった日と初診日が同じとは限らないため、必ずしも同じタイミングになるわけではありません。
- 国民健康保険に加入している場合、傷病手当金はもらえますか?
- 国民健康保険の傷病手当金は任意給付とされており、実施していない市区町村が多いとされています。
退職後に国民健康保険へ切り替える場合は、在職中と同じように傷病手当金を受け取れるとは限らない点に注意が必要です。加入予定の市区町村に確認しておくと安心です。
- 障害年金を受け取ることになったら、自分から健康保険の保険者に連絡する必要がありますか?
- 併給調整は年金の受給状況によって傷病手当金の支給額が変わる仕組みのため、障害年金の支給が決定したら早めに保険者へ伝えておくことが望ましいといえます。
連絡が遅れると、後から精算や返還が必要になる範囲が大きくなる可能性があります。
まとめ
最後に、今回解説した内容を振り返ります。
- 同一傷病で障害厚生年金を現実に受け取っている場合、傷病手当金は原則不支給で、年金の日額が下回るときのみ差額が支給される
- 障害基礎年金のみの受給については、調整を明記した規定が確認できていない
- 年金の日額は年金額を360で割って計算する
- 障害年金が遡って決定されると、傷病手当金との重複分について精算が必要になる場合がある
- 退職を検討している場合は、傷病手当金の残り期間や障害認定日の見込みも合わせて確認しておく
障害年金と傷病手当金の併給調整は、傷病の同一性や年金の種類によって扱いが変わり、個別の状況で判断が分かれる部分も少なくありません。実際の請求にあたっては、加入している健康保険の保険者や年金事務所に確認しながら進めることをおすすめします。
制度の細かい取り扱いは、加入している健康保険や請求する年金の種類によって変わる部分もあるため、疑問点は年金事務所や保険者に早めに確認しておくことをおすすめします。

傷病手当金と障害年金の扱いは状況によって変わります。退職を考えている場合、自分がどのくらい受け取れそうか、LINEの無料診断で目安を確認してみてはいかがでしょうか。


