会社を退職すると、それまでの給与から天引きされていた企業型確定拠出年金(企業型DC)の掛金拠出は止まりますが、積み立ててきた資産そのものはどうなるのか気になる人は少なくありません。
手続きをしないまま放っておいても大丈夫なのか、iDeCoへ移す必要があるのか、疑問に感じる方もいるはずです。
本記事では、退職後に企業型DCの資産をiDeCoなどへ移換する手続きの期限や、放置した場合に生じる自動移換のリスク、退職後の状況別の選択肢を中心に解説します。
すでに自動移換されてしまった場合の対処法もあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

退職したら企業型DCのお金って、自動的にどうにかなるものなの?

手続きをうっかり忘れてたら、お金が減ったりするのかな…なんだか不安だな
本記事では上記の疑問やお悩みなどにお応えします。
- 企業型DCの資産を移換すべき期限の考え方
- 期限を過ぎて自動移換された場合に起こること
- 退職後の状況別に選べる移換先の選択肢
- iDeCoへの移換手続きの流れ
- 自動移換されてしまった資産を取り戻す方法
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企業型DCは退職後どうなる?結論を先に整理
会社を退職すると、それまで加入していた企業型確定拠出年金(企業型DC)の資産は自動的に受け取れるわけではありません。
企業型DCはあくまで在籍していた企業の制度であるため、退職して加入者資格を失うと、その企業の制度に資産を置いたままにはできない仕組みになっています。
そのため退職後は、iDeCoや転職先の企業型DCなど、別の制度へ資産を移換する手続きが必要になります。この手続きには期限が設けられており、期限を過ぎると資産は自動的に国民年金基金連合会へ移されてしまいます(自動移換)。
自動移換の状態になると、運用がされないなど複数のデメリットが生じるとされています。退職後はできるだけ早めに移換先を決め、手続きを進めることが望ましいといえます。
本記事では、移換の期限や自動移換のリスク、退職後の状況別の選択肢、iDeCoへの移換手続きの流れ、すでに自動移換されてしまった場合の対処法などを解説します。

退職後6か月以内に資産を移換する必要がある理由
企業型DCの加入者が転職・退職等により加入者資格を喪失した場合、6か月以内に個人別管理資産をiDeCo・他の企業型DC・DB(確定給付企業年金)・通算企業年金のいずれかへ移換する必要があります。
資産額が少額であるなど一定の要件を満たす場合は、移換ではなく脱退一時金の請求手続きを行う選択肢もあります。要件については後ほど「退職後の状況別に見る移換先の選び方」で説明します。
なぜ「6か月」という期限が設けられているのか
企業型DCは、在籍していた企業が実施する制度であるため、退職によって加入者資格を失うと、その企業の制度に資産を置いたままにはできません。
そのため退職後は、本人の意思で移換先を選び、期限内に手続きを行う仕組みになっています。会社側が自動的に手続きを代行してくれるわけではない点に注意が必要です。
移換先になる4つの制度
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
- 転職先の企業型DC(転職先が企業型DCを導入している場合)
- DB(確定給付企業年金)
- 通算企業年金
どの制度を選べるかは、退職後の就業状況(転職先が決まっているか、求職中かなど)によって変わります。具体的な選び方は後述の「退職後の状況別に見る移換先の選び方」で解説します。
「特に何もしない」という選択肢は取れるのか
結論として、退職後に企業型DCの資産をそのままにしておく、という選択肢は基本的にありません。6か月の期限内に移換や脱退一時金の請求手続きを行わない場合は、自動的に国民年金基金連合会へ移換される仕組みになっているためです。
「忙しくて手続きする時間がない」「どの制度を選べばよいか分からない」といった理由で先延ばしにしてしまう人も少なくありませんが、先延ばしにした分だけ自動移換のリスクが高まる点は押さえておく必要があります。
期限を過ぎるとどうなる?「自動移換」の仕組み
6か月の期限内に移換や脱退一時金の請求手続きを行わなかった場合、資産は国民年金基金連合会へ自動的に移換されます。これが「自動移換」と呼ばれる仕組みです。
自動移換の手続きは加入者側では発生しない(自動的に行われる)
自動移換は、本人が何か特別な手続きをして起こるものではありません。期限までに移換や脱退一時金の請求手続きがされなかった場合に、制度側で自動的に行われます。
つまり、退職後に何もしないまま放置していると、意図せず自動移換の状態になってしまう場合があります。「まだ期限があるから」と後回しにしているうちに、期限を過ぎてしまうケースは少なくないとされています。
自動移換される際、事前に個別の通知が必ず届くとは限らないとされています。そのため、退職後は手続きの期限や進捗を自分自身で把握しておくことが大切です。
注意
自動移換された後も資産が消えてしまうわけではありませんが、複数のデメリットが生じる状態になるため注意が必要です。次章で詳しく説明します。

自動移換によって生じる3つのデメリット
自動移換された資産は、そのままの状態では運用や受給の面で不利になりやすいとされています。主なデメリットは次の3つです。
①資産が運用されない
自動移換された資産は運用がされません。企業型DCやiDeCoでは、掛金や資産を投資信託・定期預金などの商品で運用しますが、自動移換の期間中はこの運用が止まった状態になります。
運用が止まっている間は、資産が増える機会を得られないだけでなく、後述の手数料負担によって目減りする可能性もある点に注意が必要です。
例えば、退職後に相場が上昇する局面があったとしても、自動移換の期間中はその値上がりの恩恵を受けられません。逆に値下がりを避けられるわけでもなく、単に運用の機会そのものが失われる点に注意が必要です。
②管理手数料の負担が発生する
自動移換の期間中は、加入者に管理手数料の負担が発生します。運用がされないまま手数料の負担だけが発生する状態になるため、資産が目減りする可能性がある点には注意が必要です。
手数料の具体的な金額は、退職者ごとの状況や制度の定めによって異なるとされています。詳細は移換手続きを行う金融機関や国民年金基金連合会に確認することをおすすめします。
手数料は資産の状況に応じて発生し続けるとされており、放置する期間が長引くほど、その分の負担が積み重なっていく可能性があります。
③通算加入者等期間に算入されない
自動移換されている期間は、老齢給付金の受給要件となる通算加入者等期間に含まれません。
通算加入者等期間が短くなることで、老齢給付金を受け取れる年齢が遅くなる場合があります。将来の受給開始年齢に関わる要素であるため、見過ごされがちですが重要なポイントです。
老齢給付金は原則として一定の通算加入者等期間を満たすことで受け取れる年齢が定まる仕組みになっています。自動移換の期間がこの通算に含まれないことで、想定していたタイミングより受給開始が遅れてしまう可能性がある点は、見落とされがちな注意点です。
ポイント
自動移換の3つのデメリット(運用停止・手数料負担・通算加入者等期間への不算入)は、放置している期間が長いほど影響が大きくなりやすいため、退職後は早めに移換先を決めることが望ましいといえます。
退職後の状況別に見る移換先の選び方
移換先として選べる制度は、退職後の就業状況によって異なります。ここでは代表的なケースごとの選択肢を整理します。

転職先に企業型DCがある場合
転職先の企業が企業型DCを導入している場合は、転職先の企業型DCへ資産を移換できる場合があります。転職先の担当部署や制度の窓口に、移換の手続き方法を確認するとよいでしょう。
転職先の入社手続きと同じタイミングで案内されることが多いため、入社時の書類は見落とさないようにするとよいでしょう。
転職先が決まっていない・求職中の場合
転職先が決まっていない場合や、求職活動中で失業保険(基本手当)の受給手続きを進めている場合は、iDeCoへ資産を移換して運用を続ける選択肢があります。
求職活動中は失業保険の手続きや面接準備などに気を取られ、企業型DCの移換手続きが後回しになりがちです。しかし移換先が決まっていないという理由だけでは自動移換を避けられないため、求職中であってもiDeCoへの移換手続きは並行して進めておくことが望ましいとされています。
DB(確定給付企業年金)がある場合
転職先や個人の状況によっては、DB(確定給付企業年金)や通算企業年金へ資産を移換できる場合もあります。2022年5月からは、終了したDBからiDeCoへの移換や、企業型DCから通算企業年金への移換ルートも新たに可能になりました。
DBや通算企業年金への移換ができるかどうかは、転職先の制度や個人の加入状況によって異なります。該当するかどうかは、転職先の担当窓口や移換先となる制度の運営機関に確認するとよいでしょう。
運用指図者として据え置く選択肢
iDeCoに移換した後、新たな掛金の拠出は行わず、それまでの資産の運用だけを続ける「運用指図者」という関わり方もあります。当面、新たな掛金を拠出する余裕がない場合の選択肢の一つです。
ただし運用指図者として資産を据え置く場合も、口座管理手数料などの負担が発生する場合があります。掛金を拠出しないからといって費用が一切かからないわけではない点には注意が必要です。
脱退一時金を受け取れるケース
資産額や加入期間などの要件を満たす場合は、脱退一時金として資産を受け取れる場合があります。2022年5月の改正により、個人別管理資産が1.5万円を超える場合であっても、iDeCoの脱退一時金の受給要件を満たせば、iDeCoに資産を移換せずに企業型DCの脱退一時金を受給できるようになりました。
iDeCoの脱退一時金については、通算の掛金拠出期間の要件が2021年4月の改正で「3年以下」から「5年以下」に拡大されています。要件は細かく定められているため、該当するかどうかは移換先となる金融機関や国民年金基金連合会に確認することをおすすめします。
60歳以上で退職した場合の扱い
60歳以上で退職した場合は、年齢や加入期間によって受け取り方の選択肢が変わる場合があります。iDeCoの加入対象は国民年金の被保険者(第1号・第2号・第3号被保険者)と同様の範囲とされているため、退職後の年金の加入状況によってiDeCoへの新規加入・移換の可否が変わることがあります。
個別の状況に応じた判断が必要になるため、詳細は移換先の金融機関に確認するとよいでしょう。

iDeCoへの移換手続きの流れ
iDeCoへの移換は、おおまかに次のような流れで進めます。手続きに慣れていない場合でも、順を追って進めれば大きく迷うことは少ないはずです。

移換の手続きを始める前に、退職した企業から交付される「退職時のお知らせ」などの書類を確認しておくと、その後の手続きがスムーズに進みやすくなります。
①金融機関を選ぶ
iDeCoの口座を開設する金融機関(運営管理機関)を選びます。取扱商品や手数料は金融機関によって異なるため、比較して選ぶとよいでしょう。
②必要書類を準備する
加入申出書などの必要書類を準備します。退職した企業から交付される資産の移換に関する通知書類が必要になる場合もあるため、退職時に受け取った書類は保管しておくことをおすすめします。
③移換の申請書を提出する
選んだ金融機関に申請書類を提出します。書類に不備があると手続きに時間がかかる場合があるため、記入内容に誤りがないか確認してから提出するとよいでしょう。
④移換完了を確認する
手続きが完了すると、金融機関から移換完了の通知が届きます。運用商品の配分など、その後の運用方針もあわせて確認しておくと安心です。
移換が完了するまでの間は資産の運用が一時的に止まる場合があるため、手続きの状況をこまめに確認しておくと安心です。
手続きには一定の日数がかかるため、6か月の期限に余裕を持って早めに着手することが大切です。

退職手続き全体の中で企業型DC移換をいつ行うか
退職前後は、社会保険の切り替えや税金の手続き、失業保険の申請など、さまざまな手続きが重なります。企業型DCの移換は、こうした他の退職手続きと並行して進めることになる点を意識しておくと、後回しになりにくくなります。
- 健康保険の切り替え(任意継続・国民健康保険・家族の扶養など)
- 年金の切り替え(国民年金への種別変更など)
- 失業保険(基本手当)の受給手続き
- 企業型DCの資産移換手続き
- 住民税・所得税に関する手続き
健康保険や年金の切り替えは退職後すぐ〜2週間程度、失業保険の手続きはハローワークでの求職申込みとあわせて早い段階で動き出すことが多い一方、企業型DCの移換だけは6か月という比較的長い期限が設けられているため、後回しにされやすい傾向があります。
しかし期限まで余裕があるからといって先送りにすると、そのまま忘れてしまい自動移換になってしまうケースも少なくありません。
目安として、退職直後の2週間程度で健康保険と年金の切り替え、退職後1か月前後で失業保険の手続きを進め、生活が落ち着いた退職後1〜2か月の時期に企業型DCの移換先を決める、という順序で考えると手続きの負担が分散しやすくなります。
すでに自動移換されてしまった場合の対処法
すでに自動移換されてしまっている場合でも、資産自体がなくなるわけではなく、あらためて移換の手続きを行うことで運用を再開できる可能性があります。
まずは資産の移換先を確認する
自動移換されているかどうかや、現在の資産の状況が分からない場合は、国民年金基金連合会や、過去に加入していた企業型DCの運営管理機関に問い合わせて確認することができます。
- 現在、資産が自動移換の状態になっているか
- 自動移換されてからの期間
- これまでに発生している管理手数料の状況
- 移換したい先の制度(iDeCo・転職先の企業型DCなど)
再移換の手続きを行う
自動移換の状態になっている場合は、あらためてiDeCoや転職先の企業型DCなどへ資産を移換する手続きを行います。手続きの流れは前述の「iDeCoへの移換手続きの流れ」と基本的に同じです。
自動移換されている期間が長いほど、運用されない期間や手数料負担が積み重なっている可能性があります。気づいた時点でなるべく早く手続きを行うことが、デメリットをこれ以上広げないためのポイントです。
手続きの方法や必要書類が分からない場合は、移換先として検討している金融機関のコールセンターや、国民年金基金連合会の窓口に相談すると、状況に応じた案内を受けられる場合があります。

よくある質問
- 企業型DCの移換手続きに費用はかかりますか?
- 移換自体の手数料は制度や金融機関によって異なる場合があります。
自動移換された場合は運用されない状態のまま管理手数料の負担が発生するとされているため、放置せずに早めに移換先を決めることをおすすめします。
- 退職後すぐに転職先が決まっていない場合はどうすればよいですか?
- 転職先が決まっていない場合や求職中の場合は、iDeCoへ資産を移換して運用を続ける選択肢があります。
その後、転職先が決まった段階で、転職先の企業型DCへあらためて移換できる場合もあります。
- 自動移換されてしまった場合、資産はなくなってしまうのですか?
- 自動移換されても資産自体がなくなるわけではありません。
ただし運用が止まった状態が続くほか、管理手数料の負担や通算加入者等期間への不算入といったデメリットが生じる場合があるため、気づいた時点で移換手続きを行うことが望ましいとされています。
- iDeCoと企業型DC、どちらに移換したほうがよいのでしょうか?
- 転職先に企業型DCがあるかどうか、資産額や今後の働き方などによって適した選択肢は異なります。
一般的には、転職先が決まっていない場合や求職中の場合はiDeCoへの移換が選択肢になりやすいとされていますが、個別の状況によって判断が変わるため、迷う場合は移換先の金融機関に相談することをおすすめします。
まとめ
企業型DCに加入していた人が退職した場合、資産は自動的に受け取れるわけではなく、6か月以内にiDeCoなど別の制度へ移換する手続きが必要です。
期限内に手続きをしないと資産は国民年金基金連合会へ自動移換され、運用の停止・手数料の負担・通算加入者等期間への不算入といったデメリットが生じる場合があります。
転職先が決まっているか、求職中か、資産額はどのくらいかなど、状況によって選べる移換先や手続きは異なります。退職後の他の手続きと合わせて、早めに移換先を確認しておくことをおすすめします。
すでに自動移換されてしまっている場合も、あらためて移換手続きを行うことで運用を再開できる可能性があるため、まずは資産の状況を確認することから始めてみてください。
企業型DCの移換手続きと合わせて、失業保険や社会保険の手続きも気になる人は多いはずです。自分の場合にどんな手続きが必要か、LINEの無料診断で目安を確認してみてはいかがでしょうか。


