社会保険給付金は、退職後の暮らしを支える大切な手当です。
とはいえ、制度が複雑で「どんな給付があるのか」「自分は対象なのか」と迷う方も少なくありません。
そこで本記事では、代表的な給付内容から申請条件、受け取る際のメリット・デメリットまで、初めての方でも理解しやすいようにまとめました。
社会保険給付金には、失業中の生活費を補える制度もあれば、病気やけがで働けない期間をサポートする仕組みもあります。
この記事を参考に、制度を正しく知り、転職活動の不安や収入面の心配を減らしましょう。
社会保険給付金とは?
社会保険給付金とは、働く人やその家族の生活を守るために、公的保険から支給されるお金の総称です。
退職・病気・けが・老後など、収入が不安定になりやすい場面で支えとなる仕組みで、一定の条件を満たせば誰でも利用できます。
とくに退職直後は収入が途切れやすいため、どの手当を受け取れるのかを知っておくことが安心につながります。
社会保険と聞くと「健康保険と年金のこと?」と思われがちですが、実際には次の5つの制度をまとめた概念です。
- 健康保険
医療費の補助や傷病手当金を支給する制度 - 雇用保険
失業中の生活を支える仕組み(失業手当・再就職手当など) - 年金保険
老後の収入を支える公的年金(老齢・障害・遺族年金など) - 介護保険
要介護状態になったときのサービス費用を支える制度 - 労災保険
業務中・通勤中の災害によって働けなくなったときの補償
このように、社会保険給付金は幅広い場面をカバーしており、退職だけでなく、病気・事故・介護・老後まで含めた大きなサポートの仕組みだといえます。
離職後に給付される手当
社会保険給付金の中で、離職後に受け取れる手当は主に雇用保険の制度に含まれます。
収入が不安定になりやすい時期でも、手当があれば気持ちにゆとりが生まれます。
なお、「社会保険給付金」という呼び方は企業が使う名称で、法律上の正式名ではありません。
実際に対象となる主な給付は次のとおりです。
- 基本手当
- 再就職手当
- 教育訓練給付金
これらは会社ではなく、本人が申請してはじめて受け取れる給付金です。
それぞれに期限や時効が決められているため、退職後は早めに内容を確認しておくと安心です。
必要な手当を逃さないよう、落ち着いて手続きを進めましょう。
雇用保険と健康保険の2種類
社会保険給付金は、雇用保険と健康保険の2つを中心に成り立っています。
退職後の生活や、病気・けがによる休業を支える仕組みで、目的に応じて受け取れる手当が異なります。
まずは、この2つの保険が担う役割を整理し、どの給付が自分に関係するのかを確認していきましょう。
- 雇用保険
- 健康保険
雇用保険
雇用保険は、退職後の再就職までの生活をサポートするための制度です。
代表的な給付は以下の通りです。
- 基本手当(失業手当)
離職後の生活費の確保を目的に支給される中心的な手当。 - 再就職手当
早期に就職が決まった場合に支給されるボーナスのような給付。 - 教育訓練給付
資格取得やスキルアップに活用できる支援金。
離職理由や雇用保険の加入期間によって、支給日数が大きく変わる点が特徴です。
健康保険
健康保険は、病気やけがで通院や入院が必要になったときだけでなく、働けない期間の収入減を補う役割も担っています。
医療費の負担を抑える仕組みと、生活を支える給付の両面がそろっている点が特徴です。
代表的な給付は次のとおりです。
- 傷病手当金(連続して働けない状態が続くときの生活補償)
- 療養費(急な受診で保険証が使えなかった場合の払い戻し)
- 埋葬費(被保険者が亡くなった際の費用補填)
- 出産育児一時金(出産にかかる基本費用の補助)
- 出産手当金(産前産後の休業期間を支える収入補填)
このほかにも、一定額以上の医療費負担を抑える「高額療養費制度」など、家計を支える仕組みが複数用意されています。
そのなかでも、退職後の生活に直接関わるのは傷病手当金です。
退職前から働けない状態が続いている場合、条件を満たせば退職後も受給できる可能性があります。
療養中の不安を軽くする制度として、事前に仕組みを理解しておくと安心です。

社会保険給付金のデメリット
社会保険給付金には、生活を支える大きなメリットがある一方で、利用前に理解しておきたい注意点もあります。
ここでは、社会保険給付金のデメリットを5つ紹介します。
- 給付金ごとの条件を満たさなくてはいけない
- 申請手続きに時間と労力がかかる
- 退職理由によって給付制限がある
- 待機期間中・受給期間中に労働できない
- 転職までブランク期間ができる
給付金ごとの条件を満たさなくてはいけない
社会保険給付金を受け取るには、給付ごとの条件を満たす必要があります。
制度の目的が異なるため、失業保険と傷病手当金では要件も大きく変わります。
- 働く意思と就職できる能力があること
- 求職活動をしているにも関わらず就職できない状態であること
- 離職前の一定期間(通常12か月以上)の被保険者期間があること
これらに該当しない場合は、受給対象になりません。
病気で働けない場合や結婚などの自己都合で就職を控える場合は対象外です。
- 業務外の病気・けがであること
- 連続して働けない状態であること
- 3日間の待期期間を含め、4日以上の休業が続くこと
勤務継続が可能な軽度の症状や、業務中のけがは対象外です。
それぞれの条件を理解しておくと、申請に向けた準備が進めやすくなります。
申請手続きに時間と労力がかかる
社会保険給付金のデメリットは、申請から受給までに一定の時間と労力が必要になる点です。
給付を受けるには、複数の書類をそろえ、提出先での審査を経る必要があります。
失業保険はハローワークで手続きを進め、傷病手当金は協会けんぽなどの保険者へ申請します。
さらに、認定後も待機期間や給付制限があるため、実際に支給されるまでには日数がかかります。
とくに体調不良や家庭の事情を抱える方にとっては、書類準備や窓口対応が大きな負担になる場合があります。
制度を利用する際は、手続きが自動で進むわけではなく、必要な工程をすべて自分で進める必要がある点を理解しておきましょう。
退職理由によって給付制限がある
社会保険給付金には、退職理由によって受給時期が変わるという特徴があります。
とくに失業保険では、その影響が大きく表れます。
自己都合退職の場合、7日間の待機期間に加えて、2〜3か月の給付制限が設けられます。
この期間は手当が支給されないため、生活設計を立てるうえで注意が必要です。
一方で、同じ自己都合でも「特定理由離職者」と判断されるケースがあります。
たとえば、体調不良や家庭の事情でやむを得ず退職した場合が該当します。
該当すれば、給付制限を受けずに支給が始まります。
また、会社都合退職であれば給付制限はありません。
正確な理由を申告することが、受給開始時期を左右します。
手続きの際は、ハローワークで状況を丁寧に説明しておくことが大切です。
待機期間中・受給期間中に労働できない
社会保険給付金には、受給中に働けない場面があることも理解しておきましょう。
特に傷病手当金は、働けない状態を前提とした制度のため、収入を得る行為が認められていません。
給与が発生すると、給付そのものが停止される可能性があります。
一方、失業保険の場合は働くこと自体が禁止されているわけではありません。
ただし、待機期間や受給期間に収入があると、給付日数が延長されたり、支給額が減額される場合があります。
また、短時間の仕事でも収入を得た事実は、必ずハローワークへ届け出る必要があります。
申告しないまま働くと、不正受給と判断され、返還や追加徴収の対象となるため注意が必要です。
制度を利用する際は、就労ルールを正しく理解しておくことが大切です。
転職までブランク期間ができる
社会保険給付金を利用すると、再就職までの期間が延びやすくなる点も意識しておきたいポイントです。
失業手当を受給している間は、求職活動の進み方によって次の仕事が決まるまで時間がかかる場合があります。
その結果、履歴書にブランクが生じることがあります。
採用選考では、長い空白期間があると「就業意欲が低いのではないか」と判断されることがあります。
とくに数か月以上の期間が続くと、企業側の評価が下がる可能性もあります。
ただし、ブランクが避けられない状況でも、活動内容を説明できれば問題が大きくなるわけではありません。
募集企業へのアピールに備えるためにも、空白期間の理由を整理しながら転職活動を進めることが大切です。
社会保険給付金のメリット
社会保険給付金には、生活の不安を和らげるさまざまなメリットがあります。
ここでは、代表的なメリットを整理し、給付金がどのように役立つのかを詳しく紹介します。
- 安定した収入がある
- 28ヵ月間手当を受給できる場合もある
安定した収入がある
社会保険給付金には、収入を安定させてくれるという大きなメリットがあります。
収入の見通しが立つだけで、生活への不安が少し和らぎ、次に向けた準備もしやすくなります。
失業手当なら転職活動に集中できますし、傷病手当金があれば療養を優先できます。
主な給付には以下のような制度があります。
- 基本手当(失業保険)
- 傷病手当金
どちらも課税されないため、受給中は確定申告の手間がかかりません。
また、申請が完了すれば決められた期間に沿って継続的に支給されるため、無収入の時期を落ち着いて過ごせます。
ただし、受給額や期間は人によって異なるため、計画を立てながら転職活動や療養を進めることが大切です。
28ヵ月間手当を受給できる場合もある
社会保険給付金には、状況によっては長い期間にわたり支給を受けられるという特徴があります。
たとえば、傷病手当金で療養を続けたあと、回復してから退職した場合は、失業手当へ切り替えて支給を受け続けることができます。
傷病手当金は最長1年6か月まで利用でき、失業手当は条件を満たせばおよそ300日受給できるため、合わせると約28か月となります。
この仕組みは、療養と転職活動を急がず進めたい方にとって、大きな支えになります。
もちろん、体調が整えば早めの復職を目指すことも大切です。
自身の状況に合った形で制度を活用し、無理のないペースで次の一歩に備えていきましょう。

社会保険給付金の申請条件
社会保険給付金を受け取るには、給付の種類ごとに決められた条件を満たす必要があります。
ここでは、代表的な制度である失業保険と傷病手当金について、それぞれの申請条件を解説します。
- 失業保険の場合
- 傷病手当金の場合
失業保険の場合
失業保険を受け取るには、失業中であれば誰でもよいわけではなく、決められた条件を満たす必要があります。
制度の目的は、再就職に向けて活動している人を支えることにあります。
そのため、「失業状態」であることが重要な前提になります。
- 働く意思があること
- すぐに就職できる能力があること
- 求職活動を続けているにもかかわらず就業できていないこと
- 離職前の2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あること
これらを満たしたうえで、ハローワークで求職の申込みを行うと受給資格が認められます。
傷病手当金の場合
傷病手当金を受け取るには、一定の条件を満たしていることが前提です。
制度の目的は、病気やけがで働けない期間の収入を補うことにあるため、労務が可能な状態では対象になりません。
主な条件は次のとおりです。
- 業務外の病気・けがによる療養であること
- 勤務が難しい状態であること
- 連続する3日間を含む4日以上休業していること
- 休業期間に給与の支払いがないこと
また、業務中や通勤中の負傷は労災保険が適用され、美容目的の治療は対象になりません。
待期期間にあたる「3日間」には、有給休暇や土日祝日も含まれます。
このように、細かな条件を理解しておくことで、スムーズに申請を進められます。
社会保険給付金で受け取れる金額は?
社会保険給付金で受け取れる金額は、利用する制度によって大きく異なります。
ここでは主な3つの給付制度について、支給額の目安をまとめました。
| 給付名 | 支給額の目安 | 支給期間 | 主な対象 |
| 傷病手当金 | 標準報酬日額の約2/3例:日給1万円→約6,700円 | 最長1年6か月 | 業務外の病気・けがで働けない人 |
| 失業手当(基本手当) | 賃金日額の50〜80% | 90〜330日 | 再就職の意思と能力がある離職者 |
| 再就職手当 | 残りの失業手当の60〜70% | ー | 早期に再就職した受給者 |
傷病手当金は療養中の収入を補い、失業手当は再就職までの生活を支えます。
また、再就職手当は早期の就職活動を後押しする制度です。
それぞれ金額が大きく変わるため、事前に条件を確認しておきましょう。
社会保険給付金のデメリットでよくある質問
社会保険給付金には便利な面がある一方で、仕組みや手続きの違いから、疑問が生じやすい場面もあります。
ここでは、利用者から特に多く寄せられる質問を紹介します。
- 社会保険給付金は会社にバレますか?
- 結論から言うと、社会保険給付金の申請が必ず会社に伝わるわけではありません。
ただし、手続きの状況によっては、結果的に会社が気づく可能性があります。
まず、雇用保険や健康保険の手続きに不備があると、ハローワークや保険組合が会社へ確認を行うことがあります。
また、退職後の所得に大きな変化が生じた場合、年末調整や住民税の通知で違和感を持たれるケースもあります。
さらに、傷病手当金を利用し任意継続保険に加入すると、保険組合とのやり取りが続くため、状況によっては情報が会社側に伝わる可能性があります。
ただし、個人情報の扱いは組合の規約に沿って管理されます。
申請前には、書類の記入漏れがないか、退職後の保険手続きが適切に進んでいるかを確認しておくと安心です。
- 社会保険給付金はどこで申請するの?
- 社会保険給付金の申請先は、利用する制度によって異なります。
傷病手当金を利用する場合は、加入している協会けんぽや健康保険組合が窓口になります。
保険証に名称が記載されているため、確認してから問い合わせるとスムーズです。
失業手当や再就職手当などの雇用保険に関する手続きは、ハローワークで行います。
求職申込みや失業認定の説明もここで受けられます。
また、健康保険と雇用保険が絡む複雑なケースでは、市区町村役場で相談し、必要な窓口を紹介してもらう方法もあります。
手続きに不安がある場合は、社会保険労務士や申請サポート業者に依頼する選択肢もあります。
書類の整備や記入サポートなどを受けられるため、初めての方でも安心して手続きを進められます。
- 社会保険給付金と失業保険の違いは何ですか?
- 社会保険給付金と失業保険は、同じ公的制度でも目的や対象が異なります。
社会保険給付金は健康保険や雇用保険など、複数の制度から支給される手当の総称です。
一方、失業保険は雇用保険の中のひとつで、離職後の生活を支えることを目的としています。
主な違いは次の3点です。
・対象者と条件
・支給額と期間
・受給中の働き方
社会保険給付金は、傷病手当金のように在職中でも利用できる制度が含まれています。
対して、失業保険は雇用保険加入者であり、かつ働く意思と能力がある求職者が対象です。
また、支給期間にも差があります。
失業保険は通常90〜330日ですが、傷病手当金と組み合わせると長期の支援を受けられる場合があります。
まとめ
社会保険給付金を正しく理解しておくことは、退職後の生活を整えるうえでとても大切です。
失業手当や傷病手当金など、状況に応じて利用できる制度がそろっているため、収入が不安定になりやすい時期の支えになります。
一方で、申請条件が細かく、給付制限や待機期間がある点には注意が必要です。
また、受給中の働き方に制限がかかる場合もあるため、制度の特徴を把握したうえで手続きを進めることが重要です。
自分に合った給付を選ぶことで、療養や転職活動に集中できます。
必要な書類や申請先を早めに確認し、無理のないスケジュールで準備を進めていきましょう。



